チャック・パラニュークのサバイバー

サバイバー (ハヤカワ・ノヴェルズ)

サバイバー (ハヤカワ・ノヴェルズ)

何からのサバイバーかというと
カルト教団からのサバイバーである。
最初主人公の過去の記憶描写で自給自足の
現代文明の入らない共同体ということから
アーミッシュかと思ったのだがそうではなく
架空のクリード教会という宗教集団。
主人公はその教団が起こした集団自殺からの
数を減らしつつある生き残りで、
今なお金持ちの家で
「奴隷的」労働に勤しんでいる。
なぜ「奴隷的」なのか?
それはその教団が
教徒に「戸籍にのらない子ども」を産ませて、
家政を身につけさせたのちに外の世界に
「白人奴隷」として売り払うという外道な
商売をしていたのだが、
それが白日の下に晒されて、主人公のような
売り払われた存在が白日の下に晒された後も
彼が同じような仕事に就いて、自分の行動を他人に
管理されるという状況に甘んじているからだ。
雇い主から与えられる分刻みのスケジュール帳に
頻繁にならされるスピーカーフォンでの要求。
それらに苛つきながらも決定的なことはせずに
やり過ごして生活を送る。
……
この話の面白いところはやはり「カウントダウン」だと
思う。
最初のシーンで
主人公はハイジャックした飛行機のなか、
燃料の尽きるまでフライトレコーダに
今まで誰にも明かした事のない自伝を
吹き込もうとしている。
これから始まる物語の外枠が
明らかになる。
そのおわりの時間が決まっていることを
示すように、章とページ数を示すノンブルが
逆向きにカウントダウンを刻んでいる。
話のなかで教団の生き残りの数は
どんどんその自殺によって減って行き、
それが新聞上で特集を組まれてカウントダウンされる。
じりじりと終わりの時間が迫っているのに
凄い悲壮感にあふれているというわけでもなく
何故か一歩引いた感じになっている。

最後に主人公の語りが今現在の彼の状況に追いついて
いましも飛行機が墜落して死なんばかり、
もうすぐカウントダウンが終了というときに
なんでか良く分からない希望が絶望がある。
そこが面白い。おすすめ。